抄録
キュウリの種子を水平に発芽させると,胚軸と幼根の境界領域(TR領域)で彎曲し,その内側に突起状のペグが発達する。われわれは,ペグ形成開始時のTR領域において,重力がオーキシン誘導性遺伝子(CS-IAA1)の偏差的な発現を誘導することを示してきた。そこで,重力によるオーキシンを介した転写制御機構の解明を目的とし,キュウリ由来のAuxin Response Factor (CS-ARFs)の重力応答時のmRNAの局在を解析し,CS-IAA1 mRNAの局在と比較した.その結果,4種のCS-ARFsのうち,CS-ARF2については,ペグ形成開始前の吸水18時間齢の芽ばえ,ならびにペグ形成が開始される吸水24時間齢の芽ばえにおいて,表皮,皮層,維管束組織を含むTR領域全域で顕著なシグナルが検出され,CS-IAA1と発現組織が類似していた.また,解析した全てのCS-ARFsは重力に依存した偏差的な発現ならびにオーキシン応答性を示さないことから,CS-ARFsの発現する組織・細胞はオーキシン・重力刺激とは独立に制御されていると考えられた。CS-ARF2は,構造的特徴から正の転写因子であると予想され,ペグ形成開始前のTR領域においてCS-IAA1を含むオーキシン誘導性遺伝子の転写を活性化し,その活性はペグ形成開始時にオーキシン勾配により変化し,オーキシン誘導性遺伝子の偏差的発現を誘導するものと推測された.