抄録
植物はリン欠乏条件に対して、様々な機能によって適応することが知られているが、その機能の詳細については部分的にしかわかっていないことが多い。そこで本研究では、低リン適応機構に関連すると考えられる各種遺伝子の発現の変化について、イネcDNAマイクロアレイ法と定量的リアルタイムPCR法を利用して複数遺伝子の発現変化を同時に調べ、網羅的かつ体系的な解析を行なうことを目的とした。
イネ(Oryza sativa L. cv. Michikogane)を+P (1 ppm)、-P (0 ppm)条件下で一定期間栽培し、地上部および根部からRNAを抽出し、イネcDNAマイクロアレイ法および定量的リアルタイムPCRを用いて各種遺伝子の発現解析を行った。
リン欠乏処理によっていくつかのリンの吸収に関わると想定される遺伝子の発現が大幅に上昇していることが確認された。また地上部において、リン欠乏条件下で炭素代謝に関わる複数の遺伝子の発現が変動していることが確認された。一方、根部において有機酸の生合成および分泌に関与していると考えられる遺伝子群は低リンにおいて有意な発現の増加は認められなかったことから、低リンストレスによって有機酸分泌能の誘導は確認されなかった。