抄録
植物は環境ストレス下におかれると,プロリンやベタインなどの適合溶質を合成することで耐性を獲得すると考えられている.プロリンは多くの植物種でその蓄積が認められており,ストレス下では主に浸透圧調節物質として機能する.我々はこれまでにオオムギの根からプロリンの輸送体であるプロリントランスポーター(HvProT)遺伝子の単離と機能解析を行い,ストレス誘導性であることとその基質特異性について明らかにしてきた.HvProTのストレス耐性への寄与についてさらなる知見を得るために,HvProT遺伝子を過剰発現させた形質転換アラビドプシスを作出し,そのストレス耐性およびプロリン添加培地での表現型を調査した.その結果,形質転換体では明らかなストレス耐性の向上が確認された.特に,発芽後の初期生長における影響が顕著であった.また一方で,培地中の高濃度のL-プロリンは形質転換体の生長を著しく抑制することも明らかになった.同様にD-プロリンについても形質転換体では感受性となっており,これらの結果から生体内でのプロリン濃度の制御はストレス耐性の獲得のみならず,生長の抑制にも関与していることが示唆された.