抄録
気孔を構成する孔辺細胞は、光、特に青色光に反応して気孔を開口させ植物と大気間のガス交換を促進する。青色光は孔辺細胞の細胞膜H+ポンプを活性化し、気孔開口の直接の原因となるK+取り込みの駆動力を形成することが知られている。しかしながら、青色光受容体やH+ポンプの実体など青色光シグナル伝達の詳細は不明であった。私達はソラマメ孔辺細胞を用いて解析を進め、H+ポンプの実体が細胞膜H+-ATPaseであり、青色光によりH+-ATPaseが活性化されることを見出した。さらに、青色光による活性化にはH+-ATPaseのC末端から2番目のThr残基のリン酸化とリン酸化C末端への14-3-3 蛋白質の結合が必須であることを明らかにした。これは生理的シグナルによる細胞膜H+-ATPaseの活性調節機構を示した初めての例である。この研究過程において光屈性や葉緑体定位運動の青色光受容体フォトトロピン(phot)が孔辺細胞にも発現し、気孔開口の青色光受容体として機能していることを示す間接的証拠を得た。そこで、シロイヌナズナのphot変異体を用いて気孔の青色光反応を調べ、phot1とphot2が気孔開口の青色光受容体として重複して機能していることを実証した。
本研究により、青色光はphotに受容され細胞膜H+-ATPaseを活性化し、気孔開口を引き起こしていることが明らかとなった。今後、photから細胞膜H+-ATPaseへのシグナル伝達に関わる未知の因子の同定が待たれる。