抄録
光合成は光条件下において葉緑体で営まれ,葉緑体内の環境は昼夜の変化により大きく変動する.D1タンパク質に代表されるタンパク質は,その分子種の更新により光合成機能が維持される.したがって,葉緑体内環境の変化を感知した遺伝子発現制御系の介在が想定される.
葉緑体光合成遺伝子は,細菌型RNAポリメラーゼ(PEP)によって転写され,そのプロモーター認識および転写開始には核コードである複数種のσ因子が必須である.シロイヌナズナを用い,リン酸化予想部位を欠損させたSIG1およびSIG3分子種のコンストラクトを作製し,これらによりシロイヌナズナを形質転換した.これらの形質転換系統においては,暗所における葉緑体光合成遺伝子の転写産物量の低下が軽減されていた.[32P]正リン酸をシロイヌナズナに取り込ませ,σ因子をリン酸化標識した.ショ糖密度勾配遠心および免疫沈降により,SIG1およびその複合体のリン酸化の状態を解析した.以上の結果より,暗所においてはσ因子のSer/Thrタンパク質キナーゼリン酸化部位がリン酸化され,その結果,葉緑体光合成遺伝子の転写が抑制されていることが明らかになった.これはRNAポリメラーゼを構成するサブユニット (因子) のリン酸化を介した転写抑制機構の初めての証明と考えられる.