抄録
短日植物イネのHd6遺伝子は、長日条件での開花抑制能を持ち、カゼインキナーゼIIのαサブユニットをコードしている。カゼインキナーゼIIは他のモデル生物において概日時計の重要な因子であり、長日植物シロイヌナズナにおいては概日時計を介した開花制御が示唆されている。そこで機能欠損型Hd6アリルをもつイネ品種「日本晴」、と機能型Hd6を日本晴に導入した準同質遺伝子系統NIL (Hd6)を用いて、イネの概日時計関連遺伝子であるOsLHY、OsGIおよび光周性花成制御遺伝子Hd1の発現をリアルタイム定量PCRで解析した。長日条件下の播種後30日では、Hd6の機能有無による上記遺伝子の日周変動発現に有意な違いは観察されなかった。また、CAB1R::lucレポーター遺伝子を用いた幼苗での概日リズムにも有意な差はみられなかった。これらの結果はHd6によるイネの開花制御は概日時計の位相変化を介してはいないことを示唆している。一方、長日条件下での生育段階ごとの解析では、Hd6の有無により、花成スイッチ遺伝子であるイネFT相同遺伝子の発現に播種後50日目以降有意な差が見られた。同じサンプルで、OsGIやHd1の発現に差はなかった。Hd6はFT相同遺伝子の発現を抑制することによって開花をコントロールしていると考えられる。本発表では、上記の結果をふまえ、イネにおけるHd6の開花制御機構について考察する。