抄録
モデル植物シロイヌナズナを用いた概日時計分子メカニズムの解析が精力的に行なわれ、その全体像が明らかになりつつある。我々は、Arabidopsis pseudo response regulator(APRR)と名付けた5つの時計関連ファミリー遺伝子について、時計関連の機能に着目して解析を進めている。特にAPRR1は中心振動体構成因子TOC1と同一であり、残りのAPRRファミリー因子も時計機能に密接に関連していることが予想された。事実、各種APRR遺伝子のT-DNA挿入変異株や過剰発現植物体の解析から、APRR因子群が協調して概日リズム、花成制御、光応答形態形成などの時計関連の生理応答に深く関わっていることが明らかになりつつある。しかし、APRR3に関してはT-DNA挿入変異株や過剰発現植物体が困難なこともあり、遺伝学的な研究が遅れていた。今回、我々はAPRR3過剰発現植物体を取得してその表現型を解析した。その結果、赤色光への感受性の低下(胚軸伸長)、花成遅延、概日リズム周期の遅延といった顕著な表現型が認められた。これらのAPRR3過剰発現体の表現型はこれまでに報告してきた他のAPRR過剰発現体の表現型とは逆の傾向があり、APRR3が単独でユニークな時計関連機能を担っていることが強く示唆された。これらの結果と、他のARPPファミリー因子に関して既に得られている遺伝学的解析結果を総合しながら、シロイヌナズナの時計分子機構に関して考察する。