抄録
花粉の形成は、顕花植物の発生において重要な生物学的過程である。雄性配偶体の形成に影響を及ぼす変異体が多数単離されているが、その分子機構についてはほとんど分かっていない。我々はTCP16遺伝子について2種類のT-DNA挿入変異を同定した。これら変異のホモ接合体は確立できず、ヘテロ接合体の次世代において1:1の分離を示す。tcp16ヘテロ接合体と野生型との相互掛け合わせの結果から、雄性配偶体を通した変異アリルの継承が特異的に起こりづらいことが判明した。このことはtcp16変異において雄性配偶子形成が何らかの異常をきたしていることを示唆する。tcp16ヘテロ接合体の成熟花粉を観察したところ、葯内に正常花粉と異常花粉が約半数ずつ含まれており、異常花粉はゲノムDNAの消失、エキシンネットワークの異常、生存能力の欠損などの特徴を示した。GUS融合遺伝子の解析から、TCP16遺伝子の発現は花粉の四分子期から始まり、花粉有糸分裂前の小胞子成熟時期に最も強くなることが明らかとなった。tcp16ヘテロ接合体の小胞子を観察したところ、ゲノムDNAの消失が見出され、発現時期と表現型出現時期の一致が認められた。TCP16遺伝子はbHLH構造からなるTCPドメインをもつ転写因子をコードしている。これらの結果は、TCP16が花粉の形成過程に必須な役割を担う転写因子であることを強く示唆する。