抄録
アブシジン酸(ABA)は、乾燥などの環境ストレス応答に関わる植物ホルモンとして知られている。植物は乾燥ストレスを受けるとABAを蓄積し、気孔の閉鎖などが誘導され乾燥耐性を獲得する。しかしながら、植物体のどの部位でストレスを感受し、どの部位でABA合成が行なわれまた輸送されるのかなどの詳細は、いまだ不明な点が多い。本研究では、GC-MSを用いて葉と根におけるABA量の測定を進め、これらの問題を明らかにすることを試みた。
野生型植物では、数時間の乾燥処理により葉および根において内生ABA量の急速な増加が見られたが、ABA欠損突然変異体においては増加が見られなかった。この時、葉のみを乾燥処理した場合、葉におけるABAの増加が観察されたが、根のみを処理した場合、根と葉両方ともABA量の増加は見られなかった。さらに、野生型植物を葉と根に切り離し別々に乾燥処理したところ、ABA量の増加は乾燥処理した葉でのみ観察された。また、葉に塗付した13C-ABAが少なくとも60分後には、根において検出された。これらのことから、乾燥に応答した急速なABA合成は主に葉で行われ、AAO3がこのABA合成に重要な役割を持つことが明らかになり、また、葉で合成されたABAの根への移動が明らかになった。現在、各ストレス条件下におけるABA合成遺伝子と乾燥及びABA応答遺伝子の発現解析を行なっている。