抄録
代謝産物プロファイル(メタボローム)解析によって特定の代謝産物に顕著な変動が見られた場合、この過程での遺伝子発現プロファイル(トランスクリプトーム)の変化を解析しメタボロームと詳細に比較することによって、その代謝経路に深く関わる遺伝子候補の推定が可能である。本研究チームでは、モデル植物での両プロファイルの比較情報を蓄積し、実用植物での工業原材料の生産制御に応用できる手法の開発に向けた研究基盤(情報リソース)の整備を行っている。本講演では、均質な実験材料として詳細な比較解析に適しているシロイヌナズナの培養細胞(T87)を用いたトランスクリプトーム解析について報告する。安価なマクロアレイを用いて各種処理効果の確認を行った後、データ取得用の解析にはアジレント社22kアレイ(21,500遺伝子用)を用いた。最初の解析として、細胞の生育段階や光環境などについて解析し、T87の標準データを取得した。通常明所で培養するT87は葉緑体関連遺伝子の発現が高く維持されており、葉緑体の代謝解析にもT87は利用できる。イソプレノイドなどの二次代謝産物の生産を促すメチルジャスモン酸(MeJA)処理では、処理後1時間で見られるMeJA合成系の遺伝子の発現に伴い、モノテルペン合成酵素や4CL等の他いくつかの転写因子やP450、糖転移酵素などが似た変動パターンを示すことが分かった。現在メタボロームの変化と連動して発現する遺伝子の解析を進めている。