抄録
植物膜脂質の主要構成要素であるトリエン脂肪酸は、生育の温度環境に応じてその含量が変動し、植物の温度適応に重要な役割を果たしている。トリエン脂肪酸の生成は、小胞体および葉緑体膜に内在するω-3デサチュラーゼにより触媒される。シロイヌナズナでは葉緑体型イソ酵素としてFAD7、FAD8 の2つが存在し、特にFAD8 の発現は環境温度の変化に応じて調節されることが示唆されている。われわれは生体内におけるFAD7、FAD8の構造と温度変化との関連について、非変性ゲル電気泳動法(Blue Native PAGE)を用いて調べた。高温または低温環境において生育させた植物の葉組織から調製したタンパク質を同法により分離し、両イソ酵素の機能構造の分子量を推定した。FAD7、FAD8の単量体サイズはともに40kDa程度と予測されるが、FAD7は生体内において80kDa程度の複合体を形成していることが示唆された。一方FAD8は、複合体および単量体として検出され、これら2種の構造体の量比は生育温度に依存して変動した。単離葉緑体から調製したタンパク質を用いた実験では、FAD7、FAD8はいずれも複合体として検出され、単量体型FAD8は検出されなかった。これらの結果は、FAD7、FAD8はいずれも複合体として機能し、単量体として検出されたFAD8は、葉緑体膜に組み込まれる以前の未成熟の構造体である可能性を示唆している。