抄録
ほとんどの高等植物は,マメ科植物に固有な共生型のヘモグロビン(レグヘモグロビン)とは遺伝的にも構造的にも異なる非共生型のヘモグロビンを持つ。根粒菌との共生とは無関係なヘモグロビンの植物界における普遍的分布は,このヘムタンパク質の植物生理機能上の重要性を強く示唆するものであるが,その存在意義や生理機能は未だ解明されていない。私たちは,植物の非共生型ヘモグロビンの機能,特に無機窒素・活性窒素代謝におけるその関与を検証することを目的に研究をすすめ,シロイヌナズナの非共生型ヘモグロビンの1種(AtGLB1)について以下の点を明らかにした。
(1)AtGBL1 の mRNA レベルは硝酸および亜硝酸により増大する。
(2)大腸菌から精製した組換え AtGBL1 タンパク質(rAtGLB1)はペルオキシダーゼ活性を有する。
(3)rAtGLB1 は亜硝酸を電子供与体としたペルオキシダーゼ反応により,自身のチロシン残基に特異的なニトロ化をうける(亜硝酸から二酸化窒素の生成を示す)。
以上の結果から,AtGLB1 が亜硝酸代謝に関与している可能性が示唆された。硝酸同化経路の中間体である亜硝酸は活性窒素の1つに数えられ,植物組織で蓄積すると毒性を発揮すると考えられるので,亜硝酸毒性からの防御の観点から AtGLB1 の生理学的役割を議論したい。