抄録
緑色イオウ細菌の光化学系1型反応中心はPscA~Dの4つのサブユニットにより構成されている。PscAは反応中心コアダイマーを形成し、PscBはFA/FBタンパク、PscCは結合型チトクロムとして機能していることが明らかとなっているが、PscDについては機能未知のままである。我々は、PscDサブユニットの機能を明らかにするために、緑色イオウ細菌Chlorobium tepidumのPscD欠損株を作製した。野生株と欠損株の生細胞を用いて蛍光寿命を測定すると、バクテリオクロロフィルa (BChl a)の蛍光の減衰が欠損株で遅くなっていることがわかった。また、膜画分を精製すると、BChl a/P840比が欠損株でわずかに減少していた。
緑色イオウ細菌において、クロロゾームと呼ばれる光捕集器官によって捕らえられた光エネルギーは、クロロゾームのbaseplate(ベースプレート)、FMOタンパクを経由して反応中心複合体に伝達される。2次元結晶を用いた電子顕微鏡解析 [Remigy et al. (1999) J. Mol. Biol. 290, 851-858]では、PscDサブユニットがFMOタンパクと接触していることが示唆されている。ベースプレートとFMOタンパクにはBChl aが含まれており、PscDを欠損したことでFMOタンパクから反応中心へのエネルギー移動に支障をきたした結果、BChl aの蛍光寿命が長くなったと考えられた。PscDはFMOタンパクから反応中心へのエネルギー移動を効率よくするために機能しているものと推測される。