抄録
[目的]高等植物の活性酸素消去の鍵酵素であるアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)にはアイソザイムが存在するが、細胞質型APX(cAPX)のみが強光ストレスに応答性を示す。その発現制御には細胞内H2O2量もしくはプラストキノン(PQ)のレドックスが関与していることが示唆されている。そこで、cAPXの発現制御に関与するシグナル伝達機構について検討した。
[方法・結果]タバコ葉をパラコートなどで処理したところ、H2O2の増加を伴ったcAPXの誘導が認められた。また、光合成電子伝達阻害剤であるDBMIB処理によっても誘導された。以上のことからタバコcAPXは細胞内H2O2濃度およびPQのレドックスの両方により制御されていることが示唆された。そこで、強光によるcAPXの誘導にどちらの機構が関与しているかを検討するために、葉緑体内のH2O2消去能を強化した形質転換タバコを用い、cAPXの強光応答を野生株(Xi)と比較した。その結果、正常条件および強光照射1時間後のcAPXの転写レベルはXiと形質転換タバコの間で有為な差は認められなかった。しかし、3時間の強光照射により、形質転換タバコよりもXiでcAPXの高い発現レベルが確認された。以上のことからcAPXの強光応答はストレス初期ではPQのレドックスが関与し、その後継続するストレスによる細胞内H2O2量の上昇が関与していることが示唆された。