抄録
これまでの研究において、カーネーションから花色変異を引き起こす要因のひとである転移因子dTdic1を単離し、20~30コピー存在するdTdicファミリーの構造解析を行ってきた。カーネーションは中心子類ナデシコ目の植物であり、百花繚乱の花色はフラボノイド色素によるものである。しかし中心子類に属する植物の多くはベタシアニン色素を産出する。中心子類アカザ目に属するオシロイバナもベタシアニン色素を産出する植物のひとつで、花にはカーネーションと同様に転移因子によると思われる多くの花色変異、すなわちベタシアニン合成系変異をもつ。転移因子は生物界に広く分布しており、構造的特徴なども類似している。生物はなぜゲノム上に転移因子を持つのか、またこれらがどのように伝播してきたのか未だ不明な点が多い。一方で近縁種であるカーネーションとオシロイバナには、比較的近似した転移因子がゲノム内に存在し、これらの変異を引き起こしていることが考えられた。そこでカーネーションTdicの塩基配列をもとにした PCRにおいて、オシロイバナからAc/Ds型転移因子(Tmn1)を単離した。このTmn1には5ユ端近傍に既知の転移因子には見られないドメイン配列が存在することが明らかとなった。またこのTmn1が挿入した近傍遺伝子について詳細な解析を行ない、オシロイバナの花色とTmn1の挿入による遺伝子発現の変化について調べた。