抄録
高等植物の葉緑体局在型アスコルビン酸パーオキシダーゼ(APX)は、基質であるアスコルビン酸欠乏下では過酸化水素により速やかに失活する性質を有し、このことが活性酸素関連ストレスによる葉緑体損傷の原因となっている。そこで、本酵素の失活機構を探った。【方法・結果】タバコおよびホウレンソの葉緑体ストロマ局在型アイソフォーム、および紅藻Galdieriaの過酸化水素耐性型アイソフォーム等の組換えAPXを材料とした。葉緑体APXには過酸化水素耐性型APXアイソフォームには存在しないループ構造が存在する。このループ領域を耐性型APXに挿入したところ過酸化水素感受性が上昇した。このことはこのループと活性部位との相互作用が過酸化水素による失活に関与することを示唆する。さらに、葉緑体APXの失活は補酵素ヘムとアポタンパク質との複雑な共有結合を伴うことをHPLC分析により見出した。この現象は上記のキメラAPXにおいても同様であった。このときヘムと共有結合するアミノ酸残基を質量分析により同定した。このような活性部位の構造変化が、過酸化水素によるAPXの失活の原因と思われる。