抄録
維管束分化の空間的制御機構を解明するため,我々はシロイヌナズナから葉脈パターンに異常のある変異体(van1~van7)を単離し解析している.今回,細脈が著しく断片化した状態で形成されるvan3変異体について,精密マッピングに基づく原因遺伝子のクローニングを行ったので報告する.
精密マッピングの結果,van3変異は第5番染色体上,30 cMの位置,約89kbの範囲に存在することがわかった.この領域の野生型及びvan3変異体ゲノムDNAを比較したところ,推定CDSの一つに,van3変異に伴うG→Aの1塩基置換が見出された.van3変異のホモ接合個体は抽苔せずに枯死する.そこで塩基置換の発見されたCDSとその周辺域を含む野生型ゲノム断片を,van3変異に関するヘテロ接合個体に導入し,T2世代においてvan3変異形質の分離と導入遺伝子の存否との関係を調べた.その結果,導入ゲノム断片が変異形質を相補することが確認された.そこでこのCDSがVAN3遺伝子に相当すると判断した.VAN3の推定遺伝子産物は827アミノ酸残基からなり,小胞輸送の調節因子Arf GTPase-activating protein(ArfGAP)と高い相同性が認められた.またシロイヌナズナゲノムには,配列上VAN3と相同な遺伝子が他に3つ存在した.