抄録
多様な工業原材料植物における代謝遺伝子の解析は容易ではないが、植物ゲノム解読が進んだことにより、植物間に共通する代謝経路の詳細な解析が可能になりつつある。マメ科モデル植物ミヤコグサのゲノム解析により約30%の遺伝子はシロイヌナズナゲノムと相同性がない。ミヤコグサにおいて代謝関連遺伝子を解明することは、他の植物での遺伝子機能の解明に役立つ。培養細胞は植物体と比較して、処理に対する同期性や組織間での差異がないという点で優れており、代謝研究に適した材料である。本研究ではミヤコグサ培養細胞を研究材料に用いた。サリチル酸、メチルジャスモン酸、アブシジン酸、ジベレリン、イースト抽出液を投与したミヤコグサ培養細胞からtotal RNAを抽出し、ミヤコグサcDNAマクロアレイ(スポット数18,432個)を用いて、ミヤコグサ培養細胞に誘導される網羅的な遺伝子応答を解析した。解析の結果、2次代謝産物合成の活性化能が知られているイースト抽出液処理により、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ遺伝子などフェニルプロパノイド経路に関わる酵素遺伝子、ファイトアレキシンを合成する経路に関わる酵素遺伝子の転写レベルでの5倍以上の活性化が認められた。現在、根粒菌との共生でのシグナル物質Nod ファクターやファイトアレキシンを誘導する還元型グルタチオンによるミヤコグサ培養細胞での遺伝子応答についても進めている。