抄録
ヘビノネゴザ(Athyrium yokoscense)は日本に自生するシダ植物であり、カドミウム(Cd)に対して非常に強い耐性と蓄積能を有する。今日までに、その特異的な性質の故に、本植物を利用した土壌浄化を目的とした応用面からの研究はなされてきたが、生理学的な研究の蓄積は少ない。そこで、我々は、ヘビノネゴザのCd耐性・蓄積能の基本的な生理特性を明らかにすること目的として研究をおこなってきた。そして、ヘビノネゴザが持つCd耐性・蓄積能は、維管束等を介した組織依存的なものではなく細胞レベルのものであることを明らかにした。しかし、その機構として、外部のCdが細胞内へ入るのを防いでいるのか、入ったCdを細胞内で無毒化しているのか、Cdを細胞外へ排出しているのかが未だ不明である。今回、機構解明の手がかりを得るために、一般にCdによって誘導されると言われているファイトキレーチン(PC)合成酵素遺伝子の発現を調べた。PCはCdと複合体を形成し、液胞へ輸送され、Cdの無毒化に関与すると考えられている。実験の結果、PC合成酵素遺伝子の発現量は、Cd曝露量に関係なく無曝露の場合とほとんど同じであった。これは、ヘビノネゴザのCd耐性・蓄積にはPC以外の機構が関与している可能性を示唆している。現在、プロトプラストを用いた解析をおこなっており、その結果についても併せて報告する。