抄録
液胞膜型Na+/H+アンチポーターは、液胞膜を介したpH勾配をエネルギー源として利用し、細胞質に存在するNa+を液胞内に輸送する対向輸送体である。そのため、以前から本輸送体が植物の耐塩性に重要な働きをすることが指摘されてきた。当研究室では、イネの液胞膜型Na+/H+アンチポーター遺伝子(OsNHX1)を高発現したイネが、野生型より高い耐塩性を示すことを確認している(Fukuda et al., 2004 Plant Cell Physiol., in press)。また、OsNHX1が、Na+以外にK+を輸送することを確認しており、耐塩性以外にも様々な生理現象に関与する可能性を指摘してきた。今回、イネの鉄欠乏耐性へのOsNHX1の関与を示唆する結果が得られたので報告する。まず、OsNHX1を高発現したイネカルスでは、野生型より鉄含量が増加することを見出した。また、鉄欠乏下のカルスでは、増殖が低下するとともにOsNHX1遺伝子の発現量が増加した。さらに、OsNHX1を高発現したイネ幼植物では、鉄欠乏による葉のクロロシスがわずかながら野生型より抑制された。本発表では、イネの鉄吸収におけるOsNHX1の関与を考察する。