抄録
私達は、C. merolaeをモデル生物として、植物細胞の窒素欠乏に対する遺伝子発現レベルでの応答機構を明らかにすることを目指して研究を進めている。C. merolaeは、その単純な細胞構造に加え、最近、核ゲノムの全塩基配列がほぼ決定されたことにより、核とオルガネラの3種のゲノム情報が利用できる非常に魅力的な研究材料である。しかし、単離後間もない生物であるため、その利点を最大限に活かした研究を進めるためには、培養条件の改善が必要であった。そこで、液体培養条件の検討を行った結果、倍加時間は72時間から9時間に短縮され、ストレスなどにも強い健全な培養が可能となった。この倍加時間は、現在、光合成のモデル生物として利用されているラン藻やクラミドモナスと同程度のものである。また、液体培養と同様の培地成分で、寒天の代わりに0.4%のゲランガムを使用することでプレート培養系を確立した。C. merolaeでは、窒素代謝に関する生理学的知見はほとんどないため、確立した培養系をもとにの窒素欠乏への応答の生理学的解析を行った。その結果、窒素欠乏条件に移した細胞は黄化し、葉緑体の体積は減少した。さらに、窒素欠乏条件下の細胞に窒素を加えると、19時間後には通常培養条件の細胞と同じ状態に戻った。C. merolaeは窒素代謝の中心である葉緑体の機能を制御することによって、窒素欠乏条件への適応を行っていると考えられた。