抄録
植物ホルモンであるオーキシンは、植物に多彩な生理作用を示すことが知られているが、現在のところ、遺伝子、細胞レベルでのオーキシンの作用メカニズムや、信号伝達経路は不明な点が多い。そのため、オーキシンの信号伝達系の解明には、それに特異的に作用する阻害剤が有用である。そこで、オーキシンによるレポーター遺伝子の発現阻害を指標としたスクリーニングを行い、Streptomyces sp. F-40株よりTerfestatin A(TrfA)を単離した。TrfAは他の植物ホルモンの信号伝達系には作用せず、オーキシン誘導性遺伝子の発現を特異的かつ拮抗的に阻害した。さらに、TrfAは、植物個体レベルにおいてもオーキシンによる主根の伸長阻害および側根発根の両作用について拮抗阻害を示した。現在までにオーキシン受容体の候補として報告されているABP1(Auxin binding protein 1)は、オーキシンの細胞伸長作用に関与することが報告されているが、細胞分裂作用への関与は報告されていない。このことから、TrfAはABP1もしくは未知のオーキシン受容体において拮抗阻害を示していることが示唆された。TrfAは、オーキシンとは全く異なる新規な構造を有し、個体レベルでもオーキシンと拮抗作用を示すことから、オーキシン受容体に関する新しい知見を得るためのバイオプローブとして極めて有用であると考えられる。