抄録
これまで多くのアルミニウム(Al)ストレス誘導遺伝子がコムギを含む植物から単離されている。我々はAl耐性および毒性の機構解明のために、稀少転写産物でも検出可能な簡易的なディファレンシャル・ディスプレイ法により、新たなAl応答遺伝子の検索を行った。材料としてAl耐性のコムギ品種Atlas66を用い、一つのAl誘導性遺伝子を単離した。この遺伝子から推測されるアミノ酸配列が、MDRタンパク質と高い相同性を示したことから、この遺伝子をTaMDR1と名付けた。遺伝子の発現特異性を半定量的PCR法により調べた結果、TaMDR1の発現はAtlas66だけでなく、Al感受性品種のScout66においてもAlにより誘導されることが明らかとなった。さらに、Scout66ではAtlas66よりも低いAl濃度で遺伝子誘導が見られたことから、TaMDR1の誘導はAlによる根の障害により引き起こされたものと考えられる。Al障害はカルシウムの代謝異常と連動することが知られている。そこで、TaMDR1発現へのカルシウムの影響を調べた。その結果、TaMDR1の誘導はランタンイオンなどのカルシウムチャネルの阻害剤の添加、そして培地中のカルシウム濃度の低下によっても促進されることが示された。このことからTaMDR1遺伝子の誘導は根におけるカルシウム代謝の異常により引き起こされたと考えられる。