抄録
シダ類のトリテルペノイドはシクロアルタンを除きスクアレンが直接閉環して生合成される点で高等植物のそれとは大きく異なり,C-3位に酸素官能基を持たない炭化水素,diplopteneと ferneneがその代表である.ホウライシダ科の ホウライシダ属は adiantone等のノルホパノイド, 近縁のエビガラシダ属はそれとは異なりトリテルペノイドと共にセスターテルペノイドを含む.特にウラボシ科のシダは形態が単純で分類に混乱が見られるが,属あるいは種単位で含有されるトリテルペノイド成分に特徴がある.ウラボシ科のシダ類には5環性のトリテルペノイドと共に2~4環性のトリテルペノイドが含まれ,属単位で大きな特徴が現れる.アオネカズラ属はβ-amyrin acetateと共に oleanane系炭化水素の含量が高い.イワヒトデ属はトリテルペノイドの種類が非常に少ないが,squaleneが両端から閉環したcolysanoxideとα-onoceradieneを含有する.ヒトツバ属からはhopane, dammarane骨格のトリテルペノイドと共に新規骨格を有する cyclopanediolも発見された.マメヅタ属は oleanane, taraxerane, baccharane, lemmaphyllane等を含む2~5環性の20種以上の骨格を持つトリテルペノイドが含まれ,あたかもトリテルペノイド成分の生合成における制御機構を持たないシダのようである.このようにトリテルペノイドは分類学上の良い指標となるが,シダ類における生理学的な役割は未だ不明である.