抄録
電子線トモグラフィー法は、最近のそれを目的とした透過型電子顕微鏡(TEM)の開発と画像処理ソフトウェアの発展によって、急速に利用されるようになって来た。この再構成法の原理は、医用X-線CTと同様に、ラドン変換と投影切断面定理によっている。しかし、医用CTと比較して、TEM-CTでは、幾つかの異なった状況と問題点がある。例えば、TEM-CTでは、自動焦点、自動ドリフト補正の他、試料回転の100枚程度にも及ぶ投影像の自動位置合わせも必要になる。いままでの画像処理技術の改良によって、概ねそうした問題は解決しつつある。ただ、こうした改良によってもまだ実際上解決出来ていない問題点がある。TEMによる試料回転には装置上の制約から、通常約±60°~±70°に制限される。さらに、TEM用試料は一般に平面に広がっているため、その平板性のためと、回転角が大きくなるにつれ電子線透過の線形性が狂い、同様の回転角制限を受ける。こうした投影情報の欠損は、一般に、歪んだ再成結果をもたらし重要な問題点となって来た。我々は最近、この問題を克服する有力な手法を考案した。マルチステレオ計測法と、独自の投影膜厚連立方程式の解法手法により、再構成領域を実験的に求めるものである。領域の近似解が一旦求まれば、従来から開発されてきた拘束領域に基づく反復再構成法が利用でき、飛躍的な改善が見られた。