抄録
オーキシンを含む培地でシロイヌナズナの胚軸断片を培養すると不定根を生じる。私達はこの現象を器官新生の一種のモデルと把え、そこに内在する要素機構の遺伝学的同定に取り組んできた。本講演では、私達がこれまでに単離した不定根形成に関わる温度感受性突然変異体(rid1~rid5、rpd1、rgd1~rgd3)を紹介し、それらの解析結果をまとめて発表する。
変異体の表現型については、不定根形成に加えて、側根形成やカルス形成の比較検討も行い、各変異の作用点を次のように推定した。すなわち、(1) rid1は増殖能獲得過程と根端分裂組織の確立に、(2) rid2は細胞周期再進入に、 (3) rpd1は不定根原基の発達に、(4) rgd1、rgd2は細胞増殖の維持に、(5) rgd3は不定根の成長の維持に、それぞれ特に強く影響する。また、rid5では、胚軸の不定根形成、カルス形成の開始が温度感受性であったが、その際オーキシン応答性の低下が見られた。染色体マッピング、塩基配列解析、相補性検定などの結果、rid5は微小管結合タンパク質MOR1の新規変異であることが判明した。このことは細胞増殖の再開(おそらくは増殖能の獲得)につながるオーキシン情報伝達過程において、微小管系が重要な働きをしていることを示唆している。これら温度感受性突然変異の作用点、その他の知見に基づいて、不定根形成の素過程の再整理を試みたい。