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光合成酸素発生活性中心は4原子のMnと1原子のCaよりなる金属錯体であり、主としてD1蛋白質のアミノ酸残基が配位子となっている。D1蛋白質C末端アラニンのカルボキシル基はMnクラスターの配位子候補として提唱されている。 Mn原子は水の酸化分解過程で酸化・還元を受けるが、実際に個々のMn原子の酸化・還元が観測された例はない。本研究では、D1蛋白質C末端アラニンのカルボキシル基を特異的に13C同位体標識化したSynechocystis sp. PCC 6803光化学系IIコア標品を用いてS状態遷移に伴うC末端カルボキシル基の構造変化を光誘起フーリエ変換赤外吸収(FTIR)差スペクトルにより解析した。中赤外領域(1800-1200 cm-1)のS2/S1差スペクトルには、1360-1300 cm-1に同位体シフトを示すバンドが幾つか観察され、これらはMnイオンに単座配位したC末端カルボキシル基のバンドであると同定された。本バンドはS1→S2遷移で顕著に出現したが、S2→S3遷移ではほとんど変化がみられず、次のS3→S0遷移でS1→S2遷移とは符号が反転したバンドして再び出現し、S0→S1遷移では変化しなかった。以上の結果より、D1 C末端のカルボキシル基はMnクラスター中のMnイオンの単座配位子であり、このMnはS1→S2遷移で酸化されS3→S0遷移で還元されることが明らかとなった。