抄録
プロトクロロフィリド(Pchlide)還元酵素は、ポルフィリンD環を還元することによりクロロフィル(Chl)の直接の前駆体クロロフィリドを生成する。ラン藻を始め酸素発生型光合成生物の多くは、Pchlide還元酵素として光依存型酵素(LPOR)と、ニトロゲナーゼに類似した光非依存型酵素(DPOR)を有する。今回、ラン藻Plectonema boryanumのLPOR欠損株(YFP12)を活用し、酸素発生型光合成生物において初めてDPOR活性の検出に成功し、その酸素感受性について検討した。YFP12を強光下、窒素ガス(2% CO2含有)で通気培養し、嫌気チャンバー内で可溶性画分を調製した。この可溶性画分におけるPchlide還元活性を検討した結果、ATP依存的にクロロフィリドの生成が確認された。また、この活性は、可溶性画分を前もって空気に曝すことにより急激に(半減期約15分)減少した。この酸素感受性は、酸素非発生型光合成を行う紅色細菌Rhodobacter capsulatusの粗抽出液におけるDPOR活性のそれとほぼ同等であった。DPOR酵素自体は、酸素発生型光合成の成立に応じて酸素耐性を向上させるようには進化してこなかったと推察される。YFP12は弱光下では野生株と同様にChlを合成できることから、ラン藻にはDPORを酸素から保護する何らかの機構が存在することが示唆される。