抄録
我々はニンジンの胚軸切片を2,4-Dで処理し、次いで2,4-Dを含まない培地へ移して培養すると一段階で体細胞胚が形成される体細胞胚形成系を開発し、研究を進めている。胚軸切片の2,4-D処理時に特異的に発現する遺伝子の検索が体細胞から胚形成可能な細胞に転換する機構の解明につながるのではないかと考えた。Differential display法により、ニンジン胚軸切片を2,4-D処理した試料に特異的に発現する3つの遺伝子(No.130、No.151、No.209)を見いだした。No.130タンパク質はalcohol dehydrogenaseと、No.209タンパク質はBRI1や、特にlateral suppressor region Cと高い相同性が得られ、一方No.151タンパク質は他のタンパク質とほとんど相同性が見られず、新規のタンパク質であると思われる。Northern blot分析の結果、No.130とNo.209は球状胚以前の段階に、No.151は心臓型胚の段階に発現量がピークに達することが見いだされた。
また、No.209がlateral suppressor region Cと相同性があることから、lateral suppressor遺伝子もまた体細胞胚形成時に機能していることを予想した。そこでニンジンからlateral suppressor-like protein遺伝子の全長配列を同定した。この遺伝子の発現パターンはNo.209と類似していた。
現在はこれらの遺伝子について、トランスジェニック植物の観察とin situ hybridizationによる発現部位の解析により、胚形成に関わる機能の解明を試みている。