抄録
我々はクロロフィル蛍光強度の時間変化を指標としてシロイヌナズナ変異体hma1を単離した。HMA1タンパク質はZn/Co/Pb/Cdの輸送に関与すると考えられていることから、hma1の金属イオンへの感受性を調べた。その結果、過剰な亜鉛存在下で生育阻害を示した。さらに、鉄欠乏培地においてもpale greenの表現型を示し、亜鉛過剰培地での成育阻害は鉄を過剰に加えることで回復した。パルス変調蛍光測定を行ったところ、hma1は通常の大気条件では光合成状態に大きな変化は認められなかった。しかし、CO2フリー条件において、励起光照射による非光化学的消光(NPQ)の初期誘導の減少が見られた。CO2フリー条件ではlinearな電子伝達が阻害されるため、alternativeな電子伝達経路である光化学系Iの循環的電子伝達と酸素への電子伝達が誘導されることが知られている。このことからhma1はalternative電子伝達経路の欠損の結果、ΔpHの形成が不十分となりNPQの減少が生じていると考えられる。またhma1は酸素フリー条件でもNPQの初期誘導が減少したことから、酸素への電子伝達の経路には欠損がないことが示唆された。これらの結果から、hma1においては過剰な亜鉛の存在のため葉緑体への鉄の取り込みが制限されており、その結果光化学系Iの循環的電子伝達が阻害されていると考えられる。