抄録
Diplotaxis属にはC3植物とともにC3-C4中間植物が含まれているが、この内D. muralis (Dm, 2n=42)はD. tenuifolia (Dt, 2n=22; C3-C4)とD. viminea (Dv, 2n=20; C3)との自然交雑に由来していると考えられている。本研究では、これら3種の葉の構造と光合成特性を比較することから、Dmの遺伝的背景を検討した。Dtは維管束鞘細胞(BSC)に求心的に配列した多量の葉緑体とミトコンドリアを含んでいたが、DvのBSCには少量のオルガネラしか含まれなかった。DmのBSCは、葉緑体とミトコンドリアの量や細胞内配列について、DtとDvの中間であった。Glycine decarboxylase (P-protein)はDtではBSCに局在していたが、Dvでは主に葉肉細胞に蓄積していた。Dmでは葉肉細胞とBSCに分布しており、相対的にBSCに高い蓄積を示した。これらの形態的、生化学的特性はCO2ガス交換特性に反映され、DmはDtとDvとの中間的なCO2補償点を示し、CO2補償点に対する光強度の影響の程度についてもDmは両者の中間であった。このようにDmは葉の構造や光合成特性いずれもDtとDvとの中間に位置づけられ、Dmが両者の自然交雑に由来するという仮説を支持しており、光合成代謝機構の遺伝進化を考える上で興味深い。