抄録
病害抵抗性の解析における新たな実験系の構築を目的として,イネ培養細胞(Oryza sativa L. cv Nipponbare)に,親和性もしくは非親和性レースのいもち病菌(Magnaporthe grisea)胞子懸濁原液を直接接種し,イネ細胞から生成される活性酸素の消長,接種による遺伝子誘導,細胞死などについて両者に差異があるかを解析した.その結果,遺伝子誘導,細胞死については有意な差は認められなかったが,活性酸素については,非親和性胞子接種時の活性酸素レベルは,親和性胞子の接種時に比べ有意に高かった.しかし,遠心によって洗浄した胞子を接種すると,親和性胞子も非親和性胞子と同等の高レベルの活性酸素生成を誘導した.一方,親和性,非親和性いずれの胞子懸濁液由来の上清も過酸化水素を急速に消去した.100℃5分間の熱処理によってこの消去能がなくなることから,上清画分には,非親和性,親和性にかかわらず活性酸素を消去する酵素が含まれており,この酵素はイネ細胞といもち病菌が抵抗性になる組み合わせの時にイネによって産生される何らかの因子によって働きが阻害され活性酸素レベルが上がるというきわめて興味深い相互作用の機構が存在していることが示唆された.