抄録
FT-ICR MS(フーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分離装置)を用いることで,生体内の化合物を一斉に分析するメタボローム解析が可能である.一方,遺伝子変異や薬剤処理などで特定の酵素(生化学)反応が阻害されると,その反応の生成物や関連代謝経路の中間体存在量の増減だけではなく,該当する代謝系とは直接関係が無い内在化合物の含有量も変化すると考えられる.即ち,遺伝子変異や阻害剤処理された植物由来の代謝産物の種類と存在量をFT-ICR MSを用いて一斉分析することで,植物体が被った代謝への包括的な影響をメタボローム・フィンガープリンティングとして類型化し,整理することができると考えられる.類型化したメタボロミクスデータは,機能未知遺伝子の性状解析や新規阻害剤の発見への応用が期待される.本研究では,まず作用機作が確立された数種の除草剤でシロイヌナズナ植物を処理し,FT-ICR MSによる一斉分析によって処理植物のメタボロームデータを取得した.得られたデータを主成分分析(PCA)などにより解析し,除草剤処理メタボロームクラスターを得た.現在,供試した阻害剤の標的酵素遺伝子のT-DNA挿入変異体などの分析も行っている.