抄録
低リン酸環境におかれた植物は、さまざまな生理反応によりリン欠乏に対処することが知られている。中でも老化器官(ソース)から若年器官(シンク)へのリン酸転流はリン酸欠乏に対する重要な適応機構の一つである。しかし、これまでのところ、その機構の詳細は未知の部分が多い。そこで、分子レベルにおけるリン酸転流機構の解析を目標に、モデル植物であるシロイヌナズナを材料として、リン酸転流現象の生理機構と転流に関与する遺伝子の探索を行った。
シロイヌナズナにおけるリン酸転流現象を確認するため、新たに開発した水耕栽培法を用いて実験を行った。リン酸供給量の異なる培地で生育させた植物体について、成長段階を通じた葉組織中リン酸含量を測定し、個体内のリン酸分配を解析した。また、32Pにより標識した植物個体を培養し、植物個体内を転流していくリンの動態を追跡した。転流現象の生理解析に基づいて、特定の培養条件下でソース葉として機能する葉と、シンク葉として機能する葉を決定し、それぞれの葉から単離したRNAを用いて、マイクロアレイによる発現解析を行った。現在、発現変化が見られた遺伝子に関して、リン酸転流への特異的関与の可能性を検討中である。