抄録
我々は,光合成を行わない植物における光シグナル伝達経路が,光合成植物のものとどの程度異なっているかを明らかにし,植物の光シグナル伝達に関して新しい知見が得られることを目的にして研究を進めている. 本研究室ではすでに全寄生植物ヤセウツボのフィトクロム A 遺伝子の単離,同定に成功している. 本発表ではヤセウツボ中でフィトクロム A がタンパク質レベルで発現していることを確認したので報告する. 圃場にてアカクローバーに寄生させ,一週間暗所で生育させたヤセウツボよりタンパク質を抽出し,亜鉛染色法を用いてフィトクロム A タンパク質の発現を確認した. また単色光 (赤色光 (R),遠赤色光 (FR)) を用いて発芽,および,コンディショニング時 (寄生植物の発芽に必要な発芽誘導物質に反応する前の培養期間) におけるフィトクロム応答を調べた. 双方ともフィトクロムの関与が示唆され,特にコンディショニング時においてその影響が顕著であった. 発芽は連続照射を行った結果,R で阻害 (34%) ,FR で誘導 (85%) されることが確認された. また,パルス照射を行った結果,R/FR では誘導 (77%) ,FR/R では阻害 (44%) されることが確認された. 以上より,ヤセウツボの発芽においては R が阻害的に働き,FR がその阻害効果を回復することが示された.