抄録
植物は開花への反応から大きく、短日植物と長日植物に分けられる。これら植物の開花制御に関わる分子シグナルネットワークの理解が進んでいる。長日植物であるシロイヌナズナと短日植物であるイネを用いた研究から、両植物が日長を感知して開花を誘導するシグナルネットワークの骨格は保存されていることが示唆されている。我々は、イネの開花機構を明らかにするため短日植物に見られる光中断による花成遅延現象を利用して、開花関連遺伝子の発現解析を行った。播種1ヶ月後のイネに対して暗期の中央で光中断処理を一度行った場合、開花のスイッチとされるHd3a遺伝子の急激な発現抑制が観察された。この反応は、暗期の中央でもっとも効果が大きく、翌日の短日処理では抑制が解除されていることがわかった。さらにフィトクロム経路に変異の生じたse5変異体に対して光中断処理を行ったところHd3aの発現抑制は観察されなかった。このことから、フィトクロム経路がHd3a遺伝子の発現調節に関係していることが示唆された。光中断反応に重要とされる赤色光・遠赤色光受容体であるフィトクロムはイネにおいて3つの分子種、A、B、Cが存在することがこれまでに報告されている。しかしながらこれらどのフィトクロムが光中断に重要であるかはわかっていない。本研究ではイネにおけるフィトクロムの変異体を用いた光中断実験から、フィトクロムがイネの開花に与える効果について考察する。