抄録
私たちは、光合成の光誘導過程において、water-water cycle (WWC)とPSI循環電子伝達(PSI cyclic)がスターターとして機能していることを報告してきた。ここでは、イネ葉を材料にその誘導過程における律速因子について検討した。暗処理した葉に光を照射すると、炭酸固定反応が進行する前に速やかにNPQが形成され、ATP/ADP比が上昇した。両者の間には非常に高い相関が見られ、WWCとPSI cyclicがΔpH を形成し、ATP生成したものと思われた。5時間以上の暗処理を施すとイネのRubiscoは80%以上がdark-inhibitorにより失活した。また、そのような条件では、光誘導による光合成上昇の応答も著しく悪くなった。Rubiscoのdark-inhibition解除にはATPが必要なことから、次にATP生成とRubiscoの活性発現の関係について調べた。光照射後速やかにATP/ADP比は最大値に達し、続けてRubiscoの活性化(dark-inhibition解除)が認められた。しかし、この応答はCO2同化速度の上昇に対応していなかった。一方、光照射後のRuBPのプールは緩やかに増加を示し、CO2の同化速度の上昇はむしろこのRuBPのプールの増加と高い相関関係にあった。以上の結果より、光合成の光誘導過程の律速因子はRuBPの供給系にあることが推定された。