抄録
低温により光合成速度が低下する条件下では、吸収した光エネルギーが過剰となる。このような条件下では、熱放散により過剰なエネルギーを消去している。この熱放散を誘導するためには、チラコイド膜内外のpH勾配 (ΔpH) の形成が必要である。ΔpHを形成するalternative electron flowは、PSI cyclic electron flow (CEF-PSI) とwater-water cycle (WWC) の2つが知られている。これまで、測定時の葉温を低下させた短期的な低温処理により、CEF-PSIがΔpHを形成することが報告されている (Miyake et al. 2004)。一方、低温下で葉を展開させた長期的な低温処理により、WWCへの電子伝達速度も増加する (Hirotsu et al. 2004)。本研究では、短期的低温条件と長期的低温条件でCEF-PSIとWWCの応答が異なるのか、比較を行った。
25oC で生育したイネを葉温20oCで測定した短期的低温処理により、CO2同化速度は低下したが、NPQは増加していた。この時、PSIIでの電子伝達速度に対するWWCへの電子伝達速度の比 (Ja/Jf) は低下していたが、PSIIの量子収率に対するPSIの量子収率の比 (ΦPSI/ΦPSII) は増加していた。一方、20oC で葉を展開させた長期的低温処理により、CO2同化速度は低下したが、NPQは増加していた。この時、Ja/Jfは増加していたが、ΦPSI/ΦPSIIは低下していた。以上より、短期的低温条件下ではCEF-PSIが、長期的低温条件下ではWWCが、ΔpHを形成し熱放散を誘導したことが分かった。