抄録
リン酸吸収に伴うニチニチソウ細胞の呼吸増加18%に対して、安定酸素同位体分別法で測定したシアン耐性呼吸(APR)の全呼吸に占める割合は約80%に増大する。それにもかかわらずAPRの阻害剤nPGによる阻害は僅かで、呼吸速度をリン酸投与前のレベルに戻すにすぎないし、リン酸吸収には影響がない。チトクロム系(CPR)の阻害剤シアンの呼吸阻害もnPGと同程度だが、リン酸吸収を著しく阻害する。リン酸吸収の影響は呼吸ばかりでなくタンパク合成にも及び、これを著しく阻害した。その原因はリン酸吸収に伴う細胞質の酸性化であった。これらの結果は、1.リン酸吸収時の細胞質酸性化がBiochemical pH statを活性化し、プロトン消費を行うこと、2.酸性化によるタンパク合成阻害はATPレベル上昇を引起こしてCPRを阻害し、二次的に過剰還元力を生み出すが、pH statの一部として活性化されたAPRがその消去機構として働くことを示唆している。リン酸吸収時には呼吸の約80%がAPRとなるが、リン酸吸収に必要なATP生産は完全に確保されているし、さらにこのときnPGでAPRを阻害して呼吸経路を無理にCPR (Uncoupled) に切り替えてもリン酸吸収には影響がない。すなわちCPRへの電子の流れを確保しているのはADPを生成するATP利用反応(この場合はリン酸吸収)自身であると考えられる。In vivoではATP利用反応に変化がなければ、発現量を増やしたり人為的にAPRを活性化しても呼吸がAPR経路に傾くことはない。