抄録
窒素は植物の成長を律速する主要な無機栄養であり、植物の生産性を決定する光合成と呼吸という過程に大きく影響する。窒素環境に対する呼吸系の応答について、呼吸速度と窒素濃度との相関を調べた研究以外には数少なく、その相関をもたらすメカニズムも不明である。低窒素条件では炭素と窒素のバランスがくずれ、葉にデンプンが蓄積し、光合成が低下する。呼吸系は過剰の炭水化物を消費し、植物体内の炭素と窒素のバランスをとる働きをもつ可能性が高い。さらにATP合成とは共役しない経路(例えばAOX)が過剰な炭水化物を効率良く消費しうると考えられるが、AOXが炭水化物の消費系としてどの程度役立っているのかは不明である。我々は、異なる窒素栄養条件でホウレンソウを栽培し、その葉を用いて窒素栄養に対する呼吸系の応答について、特にAOXに注目して調べた。その結果、低窒素条件ほど葉面積あたりの最大光合成速度とともに呼吸速度も低い値を示した。葉面積あたりのミトコンドリアタンパク量は低窒素条件ほど少なく、COXの最大活性も低かった。一方、AOXの最大活性は低窒素条件では非常に高い値を示した。ホウレンソウ葉では低窒素条件において、ATP律速を受けないAOXが過剰に蓄積している炭水化物を効率よく消費し、光合成速度のさらなる低下や光阻害を防いでいるのかもしれない。TCA回路酵素のデータもふまえて、低窒素条件での葉のミトコンドリアの応答性について議論したい。