抄録
高等植物の硝酸還元酵素NRは、明暗変化による翻訳後調節を受けており、植物体を暗所に置くとNRはただちにリン酸化され、それに続いて14-3-3タンパク質が結合してNRは不活性化される。NRの活性調節に関わるリン酸化部位はNRのモリブデンドメインとヘムドメインを結ぶヒンジ-1領域にあるセリン残基であり、このセリン残基を含む14-3-3タンパク質の結合に必要な配列、すなわちR(K)-S-X-S-X-Pは植物のNRでは高度に保存されている。
ヒメツリガネゴケは硝酸還元酵素(NR)遺伝子を2コピーもっている。これらをクローニングし(PpNia1、PpNia2)、推定されるアミノ酸配列を他のNRのアミノ酸配列と比較したところ、モリブデンドメイン、ヘムドメイン、FADドメインは高等植物のNRと90-95%の高い相同性を示したが、ヒンジ-1領域の配列は高等植物のものと70-80%の相同性しか示さず、活性調節部位のセリン残基も保存されていなかった。また硝酸イオンを添加して前培養を行った後、暗所に移しても硝酸イオンの吸収は継続し、暗所でも硝酸イオンの輸送と還元がおこることが示された。以上のことから、ヒメツリガネゴケのNRはリン酸化と14-3-3タンパク質の結合に依存した暗所でのNR活性制御機構をもたないと結論した。