抄録
トリアゾールなどの含窒素複素環系化合物はシトクロム P450(P450)の阻害剤として知られている。我々は最近、アブシジン酸(ABA)代謝の鍵酵素である ABA 8’-位水酸化酵素として P450 の CYP707A ファミリーをシロイヌナズナから同定することに成功した。昆虫細胞で発現させた CYP707A3 ミクロソームを用いて P450 阻害剤をスクリーニングした結果、テトシクラシス、パクロブトラゾール、ウニコナゾール-P が強い阻害活性を示し、5 μM (+)-ABA 存在下における IC50 値はそれぞれ 370, 3000, 67 nMであった。特にウニコナゾール-P は Ki 値 8.0 nM を示し、ABA 8’-位水酸化酵素の強力な阻害剤であることが明らかになった。そこで、ウニコナゾール-P が植物体の ABA 代謝に及ぼす影響を検討した。シロイヌナズナをウニコナゾール-P で処理したところ、内生 ABA 量の増加がみられた。次に、乾燥ストレスを与えたところ、対照区と比較して強い耐性が認められた。この乾燥耐性はジベレリンを同時に与えた場合にも観察され、このとき内生 ABA 量は増加し ABA の主要な代謝産物であるファゼイン酸の量は減少していた。このようにウニコナゾール-P はジベレリンやブラシノステロイド生合成以外にも、ABA の代謝を強く阻害していることが明らかとなった。今後、P450 阻害剤の網羅的なスクリーニングにより、ABA代謝に対して高い選択性を示す阻害剤の開発が期待される。