抄録
葉緑体はシアノバクテリアの祖先種が初期真核生物に細胞内共生することによって生じたと考えられているが、進化の過程において祖先種由来の大部分の遺伝子は宿主細胞核へ転移したと考えられる。本研究は、全ゲノムDNA塩基配列が決定されている光合成生物の情報をもとに、光合成生物間特異的に保存された遺伝子を同定し、シロイヌナズナを用いてそれらの機能解析を行うことを目的とした。
8種のシアノバクテリア、シロイヌナズナおよび原始紅藻シアニジオシゾンの推定タンパク質配列のクラスタリングを行った。このクラスタリングでは、(1)上記10種生物全てに保存される、(2)非光合成生物には存在しない、(3)シロイヌナズナ細胞核にコードされる、というかなり厳しい条件を用いた。その結果、光合成生物全てに共通する56の機能未知タンパク質がシロイヌナズナから同定された。これらのタンパク質は、特に光合成機能との関連が推定される。GFPとの融合タンパク質をタマネギ表皮細胞で発現させることによってこれらのタンパク質の細胞内局在を調べたところ、53のタンパク質が葉緑体局在性を示した。更にRNAブロット解析を行ったところ、36の遺伝子が光応答性を示した。現在、これらの遺伝子のシロイヌナズナT-DNA挿入変異体を入手して解析を行っており、葉の色彩の異常、矮性、形態異常、等の表現型についても報告する。