抄録
WAS-3は、病原菌関連タンパク質PR-5に属し、冬小麦の低温馴化によってアポプラストに蓄積する。私たちは、WAS-3の機能を明らかにするために、小麦培養細胞を用いた組み換えタンパク質発現系を作成し、組み換えWAS-3タンパク質(rWAS-3)がin vitroにおいて雪腐れ病菌やフザリウム菌の菌糸の成長を阻害する活性を持つことを明らかにしてきた。また、rWAS-3は雪腐れ病菌やフザリウム菌の菌糸の細胞壁画分に対し親和性を持ち、菌糸の成分であるβ-1,3-グルカンに結合することを示唆してきた。しかし、抗菌活性の詳細なメカニズムは、まだ明らかになっていない。そこで、本研究では、抗菌活性のメカニズムに関する知見を得るために、rWAS-3の結晶を作成し、結晶構造の解析を行った。ハンギングドロップ蒸気拡散法によって結晶化条件のスクリーニングを行った後、至適化した結果、0.8×0.5×0.01 mmの薄い板状結晶が得られた。構造解析は分子置換法を用いて行い、1.8オングストローム分解能の立体構造を決定した。その結果、rWAS-3は3個のドメインを構成しており、ドメインAとドメインBの間に「くぼみ」があることが明らかとなった。分子表面の静電ポテンシャルに基づきモデルを作成すると、ドメインAとドメインBの間のくぼみは、負に荷電した領域であることが示されたことから、この領域にβ-1,3-グルカンが結合する可能性が考えられた。