抄録
イソプレンは、多くの植物種の葉から放出される炭素数5のテルペノイドである。代謝フラックスから見た植物のイソプレン生産・放出量は莫大であるにも関わらず、なぜ植物がイソプレンを放出するか、その意義は不明である。本研究では、植物におけるイソプレン放出の生理学的役割を解明することを目的とし、イソプレン放出種の一つであるPopulus albaからイソプレン合成酵素 (PaIspS) のcDNAをクローニングし、その発現解析及び機能解析を行うとともに、イソプレンを生合成しないとされているシロイヌナズナに本遺伝子を高発現させ、その形質の解析を行った。
まず、Populus albaからRT-PCRによりPaIspSの全長cDNAを得、大腸菌発現系を用いてその酵素機能を確認した。次いでポプラにおける本遺伝子の環境応答を明らかとするため、発現解析を行った結果、PaIspSの発現は高温及び強光条件下で強く誘導され、逆に暗黒条件下では減少した。これらのことから、イソプレンは光や温度といった物理的ストレス条件下で放出され、その放出はPaIspS遺伝子の転写レベルで制御されていることが示された。
さらに植物におけるイソプレン放出の生理学的役割を明らかにするため、本遺伝子を高発現する形質転換シロイヌナズナを作製した。今回、この形質転換体の物理ストレス抵抗性について解析を行った結果についても報告する。