抄録
果実の液胞は糖や有機酸などを高濃度に蓄積する巨大なオルガネラである.液胞膜のプロトンポンプが果実の肥大成長や物質蓄積に対して持つ役割を明らかにするために,果実特異的な発現を示すトマトの2A11プロモーター下で液胞型プロトンATPase(V-ATPase)の Aサブユニット遺伝子をアンチセンス方向で導入した形質転換トマトを作出した.実験には矮性のトマト品種(マイクロトム)を用い,アグロバクテリウム法によって形質転換を行った.
Aサブユニットアンチセンス導入系統の果実では,GUS導入系統や非形質転換体と比べてAサブユニットmRNAの蓄積が低下した.一方,葉でのmRNAの蓄積には変化が見られなかったため,2A11プロモーターの効果が果実に限定されていることが示された.Aサブユニットアンチセンス導入系統の植物体では植物体自体の成長に変化は見られなかったが, 果実の新鮮重と種子数の著しい減少がみられた. これらの結果はAサブユニットのmRNA蓄積と対応していると考えられた.また,Aサブユニットアンチセンス導入系統の果実では,グルコースとフルクトースの濃度に変化が見られなかったが,スクロース濃度が増加した.これらの結果からV-ATPaseの発現は果実の肥大成長だけでなく,種子形成や果実の糖組成にも影響を与えることが示された.