抄録
イネの耐塩性機構に関与する新規カチオン輸送体遺伝子をクローニングするために,Na+ポンプを欠損した塩感受性酵母株(G19, Δena1-4)の塩感受性を相補するイネcDNAのスクリーニングを試みた。当所イネゲノム研究チームの所有する約28,000のイネ完全長cDNAを,Gateway System(Invitrogen)を用いて酵母の多コピー発現ベクターと連結することにより,イネ完全長cDNAの酵母発現ライブラリーを作製した。ライブラリーをG19株に導入後,0.5 MのNaClを添加したSD選択培地上で生育可能な株を選抜し,導入されたcDNAクローンを同定することにより,イネカチオン輸送体遺伝子のクローニングを行った。その結果,シロイヌナズナの内向き整流性K+チャネルであるKAT1およびKAT2に相同なタンパク質(OsKAT1)をコードするcDNAが,G19株の塩ストレス感受性を相補することが明らかになった。また,酵母細胞内のNa+およびK+含量をイオンクロマトグラフィーにより測定したところ,Na+ストレス条件下において,OsKAT1を導入した株とベクターのみを導入した株の細胞内K+含量はほぼ同等であったが,Na+含量はOsKAT1発現株の方が低かった。このことから,塩ストレス条件下においてOsKAT1が細胞内のイオンバランス維持に関与する可能性が示唆された。