抄録
浮イネは通常の栽培条件では、栽培イネと同じく出穂時において1m程度であるが、洪水などの深水条件では著しい節間伸長を示し、最大7mまで伸長する。浮イネの有する節間伸長制御機構の解明は、植物における節間伸長機構の新たな知見をもたらすと考えられる。本研究では浮イネ性を有するイネの祖先種であるOryza rufipogon(W0120)とバングラデシュ浮イネ栽培品種(C9285)を普通栽培イネの台中65号(T65)と交配して得られたF2集団についてQTL解析を行った。各F2集団に対して深水処理を行い、各個体の総節間長(TIL)、伸長節間数(NEI)および最下位伸長節間節位(LEI)を計測し、QTL解析を行った。QTL解析の結果、2集団共に第12染色体の長腕側末端に、節間伸長度および伸長節間数を増加させるという強いQTLが検出されたことから、このQTLが浮イネの深水条件下での節間伸長に関する遺伝子の中でも特に大きな作用を持っていると考えられる。これまでにW0120にT65の戻し交配と分子マーカーによる選抜を行い、QTL解析で得られた浮イネ性遺伝子領域を保持する準同質遺伝子系統(NIL)を作出することに成功している。作出したNILを用いて、エチレンおよびジベレリン(GA)に関する生理学的実験を行ったところ、エチレンとGAは浮イネの深水条件下での節間伸長に密接に関与していることが明らかとなった。