抄録
シロイヌナズナは、分子遺伝学的な有用性からモデル植物として知られているが、その生理活性物質については、いくつかの植物ホルモンを除いてほとんど報告されていない。そこで、シロイヌナズナからの生理活性物質の探索を行った結果、これまでにシロイヌナズナ地上部から4つの新規糖脂質Arabidopside A~D (1~4)を単離・構造決定してきた。化合物 1~4は12-oxophytodienoic acid (OPDA)およびdinor-oxophytodienoic acid (dn-OPDA)を含む、ユニークなモノガラクトシルおよびジガラクトシルグリセロールである。今回、さらに生理活性物質の探索を行った結果、2種の糖脂質5および6を単離し、スペクトルデータならびに化学的手法を用いてこれらの構造を明らかにした。
まず、クレスの根の生長に与える影響を検討したところ、Arabidopside A (1), B (2)およびD (4)に生長抑制活性が認められた。また、アベナの第一葉にArabidopside A (1)を投与し、クロロフィルの含量を測定した結果、Arabidopside A(1)にはOPDAよりも強いクロロフィル分解促進活性が認められ、ジャスモン酸メチルと同程度の活性を示すことがわかった。以上の結果と併せて、Arabidopside類のような糖脂質が葉緑体膜に存在していると推定されていることから、Arabidopside A(1)がシロイヌナズナの老化に大きく関与している可能性が示唆された。