抄録
プロゲステロンは、ほ乳類の受精卵の着床や妊娠維持などの生理機能を持つ雌性ステロイドホルモンである。我々の研究グループは、GC-MSによってアラビドプシス、イネ、エンドウなど様々な植物においてプロゲステロンが存在することを明らかにした。また、シロイヌナズナを用いた弱光条件下での生理実験から、プロゲステロン100nM処理区では無処理に比べて約20%の伸長効果が認められたことにより、プロゲステロンが植物に対しても生理活性を示すことを明らかにした。
続いて、植物のプロゲステロン生理活性発現の分子機構をより詳しく明らかにすることを目的として、プロゲステロン情報伝達・生合成関連遺伝子の探索を試みた。動物でよく知られる核内転写因子型のプロゲステロン受容体の相同性遺伝子はアラビドプシスのゲノムDNA上には存在しないと考えられている。しかし、近年新たに同定されたヒトの7回膜貫通型プロゲステロン受容体を用いた検索の結果、アラビドプシスのゲノムデータDNA上にこの相同性遺伝子を6種同定した。これらの遺伝子破壊株を選抜し育成したところ、1つの破壊株において、さやの長さが野生型に比べて30%短くなる形態を示すことが明らかになった。現在、この遺伝子が植物におけるプロゲステロン受容体であるかどうかを明らかにするために、大腸菌での大量発現系の構築や形質転換体によるin vivoでの機能解析を試みている。